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行政手続法と指導

  • 本シリーズでは行政指導のあり方を定めた行政手続法について解説するととともに、指導が行政手続法第32条に謳う「相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」となるよう、指導大綱の見直しを視野に入れてどうしたらよいか考えた。(「行政手続法と指導(その1)」まえがきより)
  • 岐阜県保険医新聞2006年11月号から2007年4月号まで5回に分けて掲載。

その1「行政手続法に基づく指導を」
その2「実際の指導と行政手続法のギャップ」
その3「指導と監査」
その4「指導はなぜ見直されなかったか」
その5「厚生省と日医及び日歯との申し合わせ」


 保険医療機関および保険医は、健康保険法第73条により、「厚生労働大臣の指導を受けなければならない」とされている。ここでいう指導とは、いわゆる行政指導といわれるもので、形態によって集団指導、集団的個別指導、個別指導の3つに分類される。同法第78条に規定されている質問検査権等一定の強制力を伴う検査(監査と同義語、以下監査という)とはまったく別物であるはずであるが、現実の指導の場においては、監査と変わらぬ手法がまかり通り、保険医の権利侵害が起こっている。
 本シリーズでは行政指導のあり方を定めた行政手続法について解説するととともに、指導が行政手続法第32条に謳う「相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」となるよう、指導大綱の見直しを視野に入れてどうしたらよいか考えてみたい。

       行政手続法と指導(その1)


行政手続法に基づく指導を

行政手続法とは


 行政手続法は1993年(平成5年)11月に国会で全会一致で成立した比較的新しい法律である。わが国ではこれまで法律に基づかない行政指導という形で、行政目的を達成することが多く、諸外国からはこれが極めて不透明、不公正であると強く批判されていた。
 同法は全文38条からなるきわめてコンパクトな法律である(その後、改正が行われ現在は全文46条)。第1条で「この法律は処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする」と謳っている。行政処分と行政指導について一般ルールを定め、これによって公正さを高め行政プロセスの透明化をはかることを目的としている。さらに大事なことは国民の権利利益の保護に資することを目的としている点も見逃してはいけない。

保険医の心得として必須


 保険医・保険医療機関に関わる届出、保険医取り消し処分、個別指導、診療報酬の届出事項にかかわる適時調査等は全て行政手続法に基づき行われるのである。その意味では健康保険法、療養担当規則等とともに保険医であれば必ず心得ておかねばならない必須の法律といえる。
 保険医、保険医療機関の指導が該当する行政指導については第四章の第32条から第36条の5か条(別掲)がさかれている。法律の条文として行政指導の一般ルールが書かれたというのは世界ではじめてのことらしい。しかし一方で行政法の専門家から「これはあまりいばれた話ではない。がんらい行政指導は、便利だが多くは法律にもとづかないインフォーマルな活動だからだ」という指摘もあるが、これとて法文化されたことの画期的な意義を否定するものではない。

任意の協力により実現


 中でも重要なのは、行政指導の一般原則を定めた第32条である。全文暗記してもらっても良いくらい大事なことが書かれている。要点は①行政指導に携わる者は、行政指導の内容があくまで相手方の任意の協力によってのみ実現されることに留意しなければならない②行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない、である。つまり行政指導を受けるものが理解し納得できるものでなければならないものであり、行政から何ら強制されるものではないということである。さらに指導内容について納得ができなくて従わない場合であっても何の不利益も受けることはないというものだ。
 次に大事なのは第34条である。行政権限を有する行政機関について定めたものであるが、行政指導を行う側が行政指導においてはできない処分等の行政権限をちらつかせて従わせようとすることを禁じたものである。例えば「指導に従わねば監査になるよ」というようなことを言うのは厳禁である。
 さらに第35条では指導を受けるものに対し行政指導の趣旨及び内容を明確に示すことが定められている。
 以上、行政手続法の行政指導にかかわる主な条文を紹介したが、恐らく個別指導を受けた経験のある先生はこれを読んで、余りにも現実とかけ離れていることに驚かれたのではないだろうか。次号では行政手続法と実際の指導とのギャップについて取り上げる。
 なお本稿執筆にあたっては、兼子仁著「行政手続法」(岩波新書)を参考にさせていただいた。さらに行政手続法について詳しく知りたい方は、同書をお読みいただくことをお勧めする。(O)

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■行政手続法(抜粋)(平成5年11月12日成立、平成6年10月1日施行)

第4章 行政指導
(行政指導の一般原則)

 第32条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

    行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

(申請に関連する行政指導)

 第33条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。

(許認可等の権限に関連する行政指導)

 第34条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。

(行政指導の方式)

 第35条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。

    行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。

    前項の規定は、次に掲げる行政指導については、適用しない。

     1.相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの

     2.既に文書(前項の書面を含む。)又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものいう。)によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの

(複数の者を対象とする行政指導)

 第36条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。


(岐阜県保険医新聞2006年11月10日号)

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 本稿では個別指導の実際と行政手続法を比較してみた。

       行政手続法と指導(その2)


実際の指導と行政手続法のギャップ

選定理由は明示されるか


 個別指導が行われる場合、対象医療機関宛に1カ月位前に文書で通知される。通知文書には「健康保険法第73条、船員保険法第28条ノ5、国民健康保険法第41条及び老人保健法第27条の規定により、下記のとおり個別指導を実施いたしますので、出席されるよう通知いたします」「社会保険医療において定められている『保険医療機関及び保険医療養担当規則』等をさらに理解していただき、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的としています」と書かれている。しかしながら個別指導になぜ選定されたかの理由は、医科の新規指定の場合を除いて書かれていない。個別指導は今のところ特定の一部の人しか受けることがないので、誰もがどういう理由で自分が選定されたのか知りたいところである。行政指導は相手方の任意の協力によって行うという行政手続法の趣旨からいっても文書通知の時点から選定された理由を明示するのは当たり前のことである。
 個別指導の選定理由については別掲のように、医科では支払基金等よりの情報提供、医療監視の結果問題あり、高点数、新規指定等12項目が示されており、最低限このうちのどれに該当するのかは明らかにすべきである。

指導日の変更は可能か


 指導日が診療日であったり、検査や手術の予約が入っていた場合、指導日の変更はできるのだろうか。病気入院中であったり、指導日直前に身内に不幸でもあれば別であろうが、まず通常はこのような理由で変更されることはない。最近の例でも、指導日が診療日のため、休診日の木曜日に変更を申し出たが聞き入れられず、「欠席すれば監査や保険医療機関の取り消しもある」といわれ、午後休診して応じている。質問検査権を伴う税務調査であっても、調査日は事前に相手方の都合を聞き変更もしてくれるのに、任意の協力による行政指導であるにもかかわらずこの違いは何なのだろうか。本来は文書通知を行う前に、「何日に個別指導を行いたいが、都合はよろしいか」と前もって聞いてもらう位の配慮があってもいいのではないか。

指導に従う義務はあるのか


 実際に指導が行われ、もし指導の内容が納得できなければこれに従う必要はない。健康保険法第73条は「厚生労働大臣の指導を受けなければならない」と、指導を受ける義務を法文化しているだけで指導に従うかどうかは別の問題である。療養担当規則や診療報酬点数表についての誤解や理解不足があり指導の内容に納得できる場合は従うことになる。今の医療は専門分化しており、1人の技官が全ての医療分野に精通していることは不可能といってよい。医療上の取扱いに対する疑問や解釈の相違はあって当然で、これについては指導の場で議論をする他ない。行政手続法第32条で「相手方の任意の協力によってのみ実現されるものである」「行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と定めている。しかしながら現実には言いたいことは沢山あるが、ことを荒立てることなくわかりましたと指導を受け入れているケースが多いと思われる。

自主返還という名の返還命令


 また指導において誤りが指摘され、被指導者もこれを認めて納得すれば、自主返還という経済措置が要求される。指導後に送付されてくる指導結果についての文書の中で、「返還することとある指摘事項については、平成16年○月診療分から平成17年○月診療分までの期間(1年間)について自主点検の上返還すること」とされている。自主返還とは自主的に返還することかと素朴に考えている人が多いが、文面を見れば明らかなように、自主点検して返還せよという命令である。「行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」ことは先に述べたが、行政指導に従っているのに自主返還という罰則に等しい経済的ペナルティーを課されるとは一体どういうことなのか理解し難い。しかも当県では少し前からこれが新規指定の個別指導にも課されるようになったのは、さらに問題である。

高点数で選定することへの疑問


 新規指定を除いて個別指導で最も多いのは、高点数を理由にした指導である。平成8年に集団的個別指導が導入され、診療所については各科の平均点数の高い順から選定され翌年も高点数が持続すれば、翌々年に個別指導が行われることになった。その後平成10年に不正請求の防止等を最優先とする方針が新たに加わったが、高点数重視の方針は今も変わらない。この点に関しては、医療担当者の中からもおかしいのではないかという疑問が絶えない。高点数であるかどうかは、診療のやり方によって自ずから決まってくるものであり、高点数だから問題があるという合理的根拠があるわけではない。逆に低点数だったら問題がないかというとそういうことも言えない。今の仕組みでは最新の知見を取り入れて積極的に検査などを行い、病気の早期発見・診断に努めている医療機関が萎縮診療を強いられるような構造になりかねない。

適切な医療提供は保険医の責務


 健康保険法では療養担当規則14条で「保険医は、診療にあたっては、常に医学の立場を堅持して、患者の心身の状態を観察し、心理的な効果をも挙げることができるよう適切な指導をしなければならない」と規定され、指導大綱においても指導の目的は、「保険診療の質的向上及び適正化を図ること」とされている。保険医療機関及び保険医は現在の医療水準に見合った適切な医療を提供しなければならないことが法律で義務付けられているといっても良い。こうした点からも高点数を個別指導選定の重点にするといった考え方は見直されなければならない。(O)

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平成18年度岐阜県社会保険医療担当者(医科)指導実施要領より抜粋

第6 個別指導
 対象となる保険医療機関は、次の通りとする。

  ①審査機関、保険者、被保険者等から診療内容、又は診療報酬の請求に関する情報の提供があり、個別指導が必要と認められた保険医療機関。

  ②個別指導の結果、「再指導」であった保険医療機関又は「経過観察」であって改善が認められない保険医療機関。

  ③監査の結果、戒告又は注意を受けた保険医療機関。

  ④集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の診療報酬明細書について適正を欠くと認められた保険医療機関。

  ⑤正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険医療機関。

  ⑥医療監視の結果、問題があった保険医療機関。

  ⑦検察又は警察からの情報により、指導の必要性が生じた保険医療機関。

  ⑧他の保険医療機関の個別指導又は監査に関連して指導の必要性が生じた保険医療機関。

  ⑨会計検査院の実地調査の結果、指導の必要が生じた保険医療機関。

  ⑩平成16年度において集団的個別指導を受けた保険医療機関のうち、1件当たりの点数の高い保険医療機関の上位半数。

  ⑪平成17年度に新規指定した保険医療機関。

  ⑫その他、特に個別指導が必要と認められる保険医療機関。


(岐阜県保険医新聞2006年12月10日号)

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 会員から相談を受ける時、「前に監査を受けたときにこういわれた」というので、話を聞いてみると、個別指導だったということがよくある。監査であれば、行政処分で保険医取り消しもあるので大変なことなのだが、とにかく指導と監査の違いがわかっていない。しかし考えてみると、こういうこと自体、指導と監査が渾然一体となっておこなわれている実態の反映といえなくもない。本稿では指導と監査について考えてみた。なおここでいう指導とは個別指導をさす。

       行政手続法と指導(その3)


指  導  と  監  査

指導と監査の違い


 指導については、健康保険法第73条、監査については同第78条がそれぞれ法的根拠となっている(資料1)。その違いをひとことで言うと、指導は、指導を受けるものの任意の協力により行われるものであるのに対し、監査は、質問検査権など行政が一定の権限を付与されて行われる。しかし健康保険法第78条の中には監査という文言はないので、恐らく診療録等の提示、質問、検査等の一連の行為を総称して言うのであろう。監査の目的は保険医療機関の行う療養の給付が、法令の規定、療養担当規則等に則って行われているかどうか(違反していないかどうか)を確かめることにある。その結果、違反や不正が認められれば、指定の取り消し処分(軽い場合は戒告、注意)が行われる。また監査に伴い不正又は不当の事実が認められ、これに係わる返還金が生じた場合は、5年間遡り返還しなければならない(不正には40%の加算金)。これに対し指導の目的は、「保険診療の取り扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」とされているように、指導と監査の違いは明らかである。

監査には質問検査権等の強制力


 ところで73条と78条をもう一度よく見較べていただきたい。73条はただ「厚生労働大臣の指導を受けなければならない」と指導の義務を一般的に謳っているだけである。もちろん行政指導である指導には質問検査権はなく、指導を受けるものの任意の協力によって行政目的を達するのみである。これに対し78条は行政に一定の権限を付与しているために、何ができるか具体的に法律で定めている。療養の給付に関して必要があると認めるときは、①報告を命じることができる、②診療録その他の帳簿書類の提出、提示を命じることができる、③保険医療機関の開設者等に出頭を求めることができる、④当該職員に質問させ、設備、診療録、帳簿書類その他の物件を検査させることができる等である。こうした行政の権限は税務署が行う税務調査の際の質問検査権(資料2)と同じと考えればわかりやすい。

指導にも監査の手法が


 ところが実際にはどうなっているのであろうか。はじめに結論をいうと、指導は、73条に規定がない、78条に規定する監査の手法を用いて行われている。

診療録の提示・閲覧


 具体例で示すと、まず「診療録の提示・閲覧問題」である。医師の守秘義務、患者のプライバシー保護の問題もあるので、任意の協力による行政指導においては、そこまで要求できないと考えるのが一般的である。もちろん73条に診療録の提示・閲覧の規定はない。指導大綱により「指導月以前の連続した2カ月分の診療報酬明細書に基づき、関係書類等を閲覧し、面接懇談方式により行う」と記述され、さらに指導大綱関係実施要領ではこの部分が、「…、診療録その他の関係書類を閲覧し、…」となり、実際の指導においても診療録の持参・閲覧は当然のこととして行われている。

自主がつく返還金


 次に「返還金の問題」についても同様のことが言える。前述の通り監査の結果、不当・不正が認められれば5年間遡って返還金を命じられる。指導においても自主返還という名で返還金が求められる(遡るのは原則1年以上、加算金なし)。この点について、前号で「行政指導では不利益な取り扱いを受けないとしているのに経済的ペナルティーを受ける」と書いたが、これはまさに経済的な制裁措置であり、監査における考え方と同じである。

患者調査も実施


 さらに「患者調査の問題」がある。監査は、療養の給付が法令の規定どおり行われたかどうか調査するものであるから、監査が実施される場合、健康保険法第60条2項による「療養の給付等を受けたものに対し、その内容について報告を命じ、質問をさせることができる」とする規定に基づき患者調査が行われる。この規定は監査に関連し、必要な場合に行使される。ところが指導においても患者調査が行われる場合がある。指導大綱の個別指導の②再指導のところに、「なお不正、不当が疑われ、患者から受療状況等聴取が必要と考えられる場合は、速やかに患者調査を行い、その結果を基に当該保険医療機関の再指導を行う」と書かれている。これは一体どういうことであろうか。先の60条2項に基づかない、つまり行政に質問検査権を与えないまったく任意の患者調査と言うものが存在するのであろうか。
 このように監査でしか行えないことが指導の場で堂々とまかり通っているのが現実である。民主的法治国家であるわが国の保険医療行政分野で、何でこんな摩訶不思議なことが行われているのか。次号ではその謎に挑戦する。(O)

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<資料1>
健康保険法より抜粋

(厚生労働大臣の指導)

 第73条 保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない。

(保険医療機関又は保険薬局の報告等)

 第78条 厚生労働大臣は、療養の給付に関して必要があると認めるときは、保険医療機関若しくは保険薬局若しくは保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者、保険医、保険薬剤師その他の従業者であった者(以下この項において「開設者であった者等」という)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者、保険医、保険薬剤師その他の従業者(開設者であったものを含む。)に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは保険医療機関若しくは保険薬局について設備若しくは診療録、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。


<資料2>
所得税法より抜粋

(当該職員の質問検査権)

 第234条 国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。

 (略)

     前項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。


(岐阜県保険医新聞2007年1月10日号)

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 前号で指導、監査は法的にその違いが明確であるにもかかわらず、現場ではこれらの区別があいまいなまま、監査まがいの指導が日常化している問題を取り上げた。今回は行政手続法制定に伴う指導関連部分の見直しについて取り上げた。

       行政手続法と指導(その4)


指導はなぜ見直されなかったか

監査要綱に聴聞規定


 行政手続法は平成5年11月12日に制定、翌年10月1日より施行された。同法は行政処分と行政指導についての一般的ルールを定めたものなので、「刑事事件に関する法令に基づいて検察官などがする処分や行政指導」等の適用除外とされるものを除いて、関連部分について多分野にわたり法改正、通知の見直し等が行われた。健康保険法の関係では監査要綱に聴聞の規定が盛り込まれ、「監査後、取消処分予定者に対して、行政手続法(平成5年法律第88号)の規定に基づき聴聞を行わなければならない」とされた。

見直されなかった指導


 ところが指導大綱については、集団的個別指導という新たな仕組みが導入された他は、個別指導については何の見直しも行われず従来の考え方がそのまま引き継がれた。ご承知のように集団的個別指導は平成5年10月に起きた富山県での個別指導による保険医自殺事件、平成7年の京都府の歯科技官と歯科医師会の贈収賄事件がきっかけとなり、個別指導の選定等における行政の恣意性を排除するために設けられたものである。また選定委員会で指導対象者を選定することとしたのは、指導対象者を決める際に医師会、歯科医師会の介入を排除するためであった。

前文に行政手続法の趣旨を


 本シリーズの①「行政手続法とは」で「法律の条文として行政指導の一般ルールが書かれたというのは世界ではじめてのことらしい」と書いたが、ある意味では行政手続法の核心ともいうべき行政指導に該当する指導の部分がどうして見直されず放置されたのであろうか。本来であれば指導大綱の前文に、行政手続法の第32条に謳われている「行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない」「その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」等が盛り込まれなければならないはずであった。

施行日前日に通知


 厚生労働省は、行政手続法の施行直前の9月30日付で保険局の課長通知を出し、「平成6年10月1日より行政手続法が施行されることに伴い、保険医、保険薬剤師の登録、指定訪問看護事業者及び指定老人訪問看護事業者の指定、診療報酬上の承認等事務の執行に当たり留意すべき事項を下記のとおり示すので、その実施に遺漏のないよう格段のご配慮を賜りたい」としているが、下記に示されているのは「申請に対する処分」「不利益処分」「届出に係わるもの」であり、ここでも指導については一切触れていない。

明言を避けてきた厚労省


 厚生労働省は、行政手続法と指導の関係については自ら見解を示したことはない。平成13年10月24日に北信越ブロックの保険医協会が指導・監査問題で厚生労働省交渉を行った際、「指導には行政手続法の規定が適用される」と追求したが、その日には回答できず後日、当時の医療指導監査室長が交渉を仲介した木嶋衆議院議員を訪れ「指導は健康保険法に基づき実施されるが、行政手続法の精神に背くものではなく趣旨は十分生かされている」と説明し、木嶋議員より「行政手続法上の規定が適用されていると考えてよいか」との問いについてこれを認めた(長野保険医新聞)。

かたくなな官僚体質


 この医療指導監査室長の説明はまさに官僚答弁の見本みたいなものである。聞いていることにはまともに答えない。従来自分達が長年にわたって行ってきたやり方について見直す気は全くない。しかしながら、指摘されていることが的を射たことなので無視する訳にもいかない。それで「行政手続法の精神に背くわけではなく趣旨は十分生かされている」と言わざるを得ない。これはいったい何なのでしょうか。皆さんこの説明を聞いて理解できますか。
 保険行政において行政手続法が適用されることを否定することができないのは、現実に監査要綱の見直しを行ったことからも明らかである。それでもこと指導に関しては従来のやり方を変えようとしないこのかたくなな官僚体質が大きな障害として立ちはだかっている。これを乗り越えない限り行政手続法に基づく指導の実現は難しい。今後も引き続き、行政手続法に基づく指導が行われるよう粘り強く働きかける以外にない。 (O)

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個別指導心得10か条 ~通知が来ても慌てないために

(指導の当日までにやるべきこと)
(1)指導通知を受理したら、指導の種類・目的・内容を確認しましょう。
(2)1人で悩まず、保険医協会に相談しましょう。
(3)指導の制度・仕組みを事前に理解しておきましょう。
(4)指導日時が都合が悪い場合は、理由を明示して日程変更を申し出ましょう。
(5)諸資料のチェックを事前に行いましょう。
(6)立会人を確認し、必要があれば希望する人の帯同を申し出ましょう。
(指導当日の留意点)
(7)個別指導には、平常心で臨み、指導内容をメモなどで確認しましょう。
(8)個別指導には、保険医が責任を持って対応しましょう。
(個別指導後の留意点)
(9)納得できない「自主返還」はしないようにしましょう。
(10)指導の際の指摘事項について改善をしましょう。

(保団連発行「保険医のための審査、指導・監査対策」より抜粋)

(岐阜県保険医新聞2007年2月10日号)

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 前回(2月10日号)は、行政手続法に基づく指導が実施されないのは厚生労働省のかたくなな官僚体質が大きな障害になっていることを書いたが、本シリーズを締めくくるにあたってもう1つ取り上げねばならない問題が残っている。それは昭和35年に取り交わされた「厚生省(当時)と日本医師会及び日本歯科医師会との申し合わせ」(別掲・以下「申し合わせ」という)である。

    行政手続法と指導(その5)


「厚生省と日医及び日歯との申し合わせ」

当初は監査のみでスタート


 まず指導、監査の制度がどのように作られてきたかを振り返ってみたい。鳥取協会がまとめた「指導と監査をめぐる関係法律施行の時系列」(別掲)が大変参考になる。1949年(昭和24年)に監査要綱が制定され、当初は監査のみしか存在しなかった(指導大綱が制定されるのは5年後の1954年)。このため戦後の一時期、健保赤字解消をかかげ人権を無視した監査が頻発、国会でも取り上げられ問題となった。当局も監査のみでは対応が困難と考え指導大綱を制定したのであるが、同時に日医、日歯との申し合わせを取り交わし、①個別指導は、医師会、歯科医師会との協議により計画的に実施する、②指導の際、発見された不当事項の取り扱いについては、まず指導による改善を求める。指導後改善なき場合は、監査を実施する。との方針を決定した。これが現在の指導の考え方の原型となっている。

57年に法整備


 その後1957年になってはじめて、「指導」「監査」は健康保険法の法文上整備される。つまり1957年までは法的根拠が不備のまま、行政主導でこれに医師会、歯科医師会が協力する形で指導、監査が行われていたことになる。しかもこれまでは指導というより監査が主体で行われていた。

「申し合わせ」が指導大綱に


 ではこれで落ち着いたのかというとそうではない。2年後の1959年には埼玉、宮城で監査後に保険医が相次いで自殺するという事件が起きる。これを受けて翌年2月15日取りまとめられたのが、今回取り上げた「厚生省と日本医師会及び日本歯科医師会との申し合わせ」である。これは同月25日付の厚生省保険局長通知「社会保険医療担当者指導の具体的取り扱い」として都道府県に発出され、「この両団体と標記について別紙のとうり申し合わせを行ったから、今後の社会保険医療担当者に対する指導は、前記指導大綱によるほか、下記事項に留意のうえこの申し合わせの線により指導の徹底を期せられたい」とし、「申し合わせ」によって取り決められた内容が示されている。さらにこれらの文言は現在の指導大綱にも盛り込まれ、実際の指導において指針とされている。

さらに指導を優先


 そこで「申し合わせ」の中味について考えてみたい。「申し合わせ」は1954年の申し合わせの内容を引き継いでおり、さらに指導を優先して実施することを強調している。本「申し合わせ」後に開かれた全国技官会議で「監査による一罰百戒主義を改め、たとえ不当が疑われても指導を優先して実施し、間違いの酷いもの、改めないものは監査対象とする」旨が説明された。

何が問題なのか


 では「申し合わせ」の何が問題なのか。本シリーズのその3「指導と監査」(1月10日号)で指導と監査は法的に全く別物であるにもかかわらず、現実にはこれらが混同されて運用されている実態を批判した。例えば「申し合わせ」の3に見られる個別指導における患者の実態調査には何の法的根拠もない。指導とは指導を受ける側の任意の協力によって行うものであるため行政が勝手に患者の実態調査など行えるわけがない。監査の場合のみ健康保険法第60条2項の「療養の給付を受けた者に対し、その内容について報告を命じ、質問させることができる」とする規定により患者実態調査が行えるのである。
 指導は保険医であれば誰でも受けなければならないもので、懇切丁寧に、指導を受ける側の理解と納得を得て行うものであり、さらに指導を受けたことによって何の不利益をこうむるものではない。これに対し、監査は不正や著しい不当が疑われる一部の保険医に対し一定の強制力(質問検査権等)を伴って行われるもので監査の結果、行政処分を受け保険医取り消しとなる場合(全監査件数の約半数)もあり、全く性格が異なる。「申し合わせ」はこうした指導と監査の区別を踏まえず、連続するものあるいは一体のものとしてとらえているところに最大の問題がある。そしてこの「申し合わせ」によって、指導の中に監査まがいの手法(カルテ調査、患者実態調査、自主返還、質問検査権があるかのような当局の振る舞い)が持ち込まれ現在に至っている。現在の指導における問題を象徴する事件が1993年、富山で起きた。監査ではなく個別指導が原因で保険医が自殺した。

廃止を含む見直しの議論を


 行政手続法という保険医の権利擁護に資する新たな法律が存在する今、指導に監査的手法を持ち込むというやり方は誰が見てもこれからもずっと続くはずはない。行政手続法に基づく個別指導の実施は喫緊の課題である。このため「申し合わせ」の廃止を含む見直し問題は避けて通ることができない。協会、医師会、歯科医師会での活発な議論が望まれる。(O)

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指導と監査をめぐる関係法律施行の時系列(抜粋)-2005.11作成 鳥取県保険医協会

1949年(昭和24)1月1日 監査要綱が初めて制定
1953年(昭和28)6月10日 監査要綱を一部改定

                 監査の公正な取扱いを狙いとして明文化されたものであったが、監査のみに依存した体制では対応が困難なことから、翌年には指導大綱が定められた。いずれも法的根拠は不備だった。

1954年(昭和29) 指導大綱を初めて制定
1954年(昭和29)12月28日 監査の選考基準

                 不正・不当の疑いについての具体的な例示が初めてなされた。

1954年(昭和29)12月28日 指導大綱を一部改定
1954年(昭和29)12月28日 厚生省、日医、日歯との申し合わせ

                 ①個別指導は、医師会、歯科医師会との協議により計画的に実施する。

                 ②指導の際、発見された不当事項の取り扱いについては、まず指導による改善を求める。指導後改善なき場合は監査を実施する。

1957年(昭和32)3月 健保法改正

                 ①保険医療機関への指導(旧法43条ノ7)と監査(旧法43条ノ10)について、初めて法整備が行われた。

                 ②保険診療を行うために、保険医の登録と保険医療機関の指定いわゆる「保険診療の二重指定制」が確立された。

1957年(昭和32)7月4日 指導大綱を一部改定
1958年(昭和33)6月30日 新医療費体系の導入

                 現在使用されている診療報酬点数表(いわゆる青本)の原型が告示された。

1959年(昭和34)8月1日 埼玉県で監査後自殺事件
1959年(昭和34)11月13日 宮城県で監査後自殺事件
1960年(昭和35)2月15日 厚生省、日医、日歯との申し合わせ
1960年(昭和35)3月1日 全国技官会議での説示・指示

                 埼玉、宮城事件を踏まえ、保険医の剥奪は死活問題であるので、監査による一罰百戒主義を改め、たとえ不当が疑われても、指導を優先して実施し、「間違いの酷いもの」「改めないもの」は監査対象とするなどの方針が指示された。


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厚生省と日本医師会及び日本歯科医師会との申し合わせ〔昭和35年2月15日〕

 監査によって明らかになった事故を検討すると、その中には指導によって防止し得たものが多いと
考えられるので次のように指導の徹底を期することとする。

 1.医師会、歯科医師会は、その使命にもとづき、「社会保険医療担当者指導大綱」の方針にそって自主的に会員の指導につとめ、行政庁の行う指導と相まって、指導の徹底を期するものとし、その間相互に十分連絡を密にし、相協力するものとすること。

 2.指導は、つとめて個別指導を行うこととすること。ただし、指導を特に必要とするものについては、優先的に行うよう留意すること。

 3.行政庁が個別指導を行った上なお必要がある場合は患者の実態調査を行うこと。この調査は、特に指導のために行うものであるから原則として、調査に現われた結果をもって直ちに監査対象とする扱いはしないものとすること。ただし、特に不正の事実が明らかであると思われるものについては、更に調査のうえ必要に応じて適当な措置をとること。

 4.本指導と監査との関連については、冒頭に述べた趣旨により、通常は指導を行ってもなお改善されないものについては監査を行うものとすること。


(岐阜県保険医新聞2007年4月10日号)

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